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親がセラピストになるということ

つみきの会は、親が自らわが子のセラピストになることを勧めている。

なぜか、というと、私自身がそうだったから。もう20年以上前になるが、わが子が2才の時に「自閉傾向」と診断され、その直後にキャサリン・モーリスさんの本で、ロバース博士のABA早期療育の成果を知って、「やるしかない」と思ったのだった。それはそれは、私にとって思い切った決断だった。

そもそも素人の私にできるだろうか。しかしロバース博士の著書「自閉児の言語」(絶版です)を取り寄せて読むと、やり方自体は筋が通っていて、専門の装置も器具も要らず、ロバース博士自身、親がセラピストになることを勧めていた。

しかも、ロバース博士の研究では、約半分の子どもが知的に正常域に達し、小学校普通学級に入ることができていた。47%、というのは、充分に賭ける価値のある数字だ、と思った。

実際にやってみると、最初は不安だったが、娘はいろんなことを学び始め、全くなかったことばも、1か月後には出るようになった。これはすばらしい!と感激した。だから、この会を作ったのである。同じような感激を、他の親御さんにも味わってほしくて。

わが子にABAを始めるまでの1年間は、とても苦しかった。1才の誕生日を過ぎる頃から、ことばがでるのを「いまか、いまか」と待ち続け、1才半を過ぎる頃から、障害を疑い始めたものの、ただ待つしかなかったからだ。

ABAを始めてからは、確かに別の意味で大変だったが、もう待つ必要がない、というのが、何より精神衛生上よかった。教える過程で、わが子の障害の深刻さをあらためて思い知らされて落ち込むことも多かったが、それでも娘は少しずつできることが増えて行った。それはわが家に、再び笑いと希望を取り戻してくれたのである。

残念ながら、私たちは娘を治してあげることはできなかった。でも、ことばは話せるようになったし、簡単な会話もできる。漢字も書けるようになったし、数学だって解けるようになった。トイレも自分で行ける。着替えもできる。ABAをやっていなかったら、何もできなかったかもしれない。そう考えると、やってよかった、とつくづくと思うのである。

いま、ABAを名乗る児童発達支援事業所(略して「児発」)があふれている。24年前とは隔世の感がある。ただ、気を付けてほしいのは、ABAを名乗っているからと言って、みんながみんな、ちゃんとABAをわかってやっているか、というと、そんなことはない、ということだ。

先日も、「新しく立ち上げる事業所でABAをやりたいが、何も知らないので、指導してほしい」という依頼の電話がかかってきた。その事業所のHPを見ると、堂々と「1対1のABAセラピー」を謳っている。それなのに、経営者もスタッフもしろうとばかり。ABAを名乗る他の事業所に2年勤めた人が一人いるだけ、というありさまだった。これにはあきれた。なんとなく「ABAは人気だ」ということで、経営者が看板だけ掲げたらしい。一度だけ職員研修に行ったが、それっきりなので、あとはどうなったことか。

これはひどすぎる例かもしれないが、スタッフの誰かがちょっとどこかで講習を受けた、というくらいで、実技指導も受けずにABAを名乗っているところは多いのではないか。

一応、ABAをわかってやっているはずの大手の事業所でも、たいていは、遊びながら無理なく楽しく、という方針を取っている。ロバース博士みたいに、机を挟んで、椅子に座らせてガンガン教えたりしないのだ。だから、半年通っても、大して何も学んでこない、ということがしばしば起こる。

先日、つみきの会で、オンライン飲み会をしたときも、その話題になった。わが子を個別療育の事業所に通わせている、という親は何人かいたが、みな、「わが子がそこで何かを学んでくるとは期待していない。般化のため、と思って行かせている」と言っていた(般化というのは、一つの環境で学んだことを他の環境で発揮する、ということ)。

だから、ABA個別療育を名乗る児発に通わせているからと言って、安心してはいけない。彼らは「任せてください」と聞こえのいいことを言うが、あてにしてはいけない。下手をすると、半年、一年経っても、大してできることが増えていない、ということになりかねないのである。

やはり、大事なわが子の将来に関わることを、人任せにしてはいけない。しんどくても、楽に流れず、親が自分でABAを学び、わが子に教えてみよう。そこから得られることは、きっと大きいはずだ。

つみきの会
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Author : 藤坂龍司

2000年から、ABA家庭療育に取り組む親の会であるつみきの会の代表を務めています。自閉症の一人娘と妻と三人暮らしです。

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2000年から、ABA家庭療育に取り組む親の会であるつみきの会の代表を務めています。自閉症の一人娘と妻と三人暮らしです。

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